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分業が生み出す生産能力の向上効果と組織が腐るメカニズム

複数の人員が役割を分担して生産を行う分業。最初から最後まで1人で作業するのではななく、生産効率を高めるために古くから用いられた有効な役割分担の仕組みです。失敗学の権威として有名な畑村洋太郎さん著「技術の創造と設計」という本の中で触れられている「分業」という構造が生み出す失敗に”なるほど”と感じる部分があったのでシェアします。

技術の創造と設計の著者

畑村洋太郎さんが「技術の創造と設計」の著者。失敗学を専門とした工学者で東京大学の名誉教授。失敗学会の設立にも関わった人物だそうです。元々は「ものづくり」の領域における失敗学を得意としていたようですが、現在は経営分野における「失敗学」にも研究領域を広げている人物です。

この本、「技術の創造と設計」というタイトルでなんだか堅そう。工業系の設計や技術に関する「”the” ものづくり」な内容かと思ってましたが、組織論にかなりのページを割いているので「ものづくり」とは直接的な関係がない人にも楽しめる内容になっていました。(半分近くが組織論的な内容でした。)組織で働く人は読んでおいて損はないです。

やっぱり書店は面白い

この本を書店で見かけたとき、最初はスルーしそうになりましたが、何だか気になってパラパラとページをめくってみたのが出会い。まさかの出会いがあるので、書店は面白いと思う。でも買うのはオンラインショップです。(すいません…。)

現代の分業(役割分担)

分業という仕組みは「効率的に生産する」という点でとても有効な手段です。伝統工芸や職人の世界だけだと思う人もいるかもしれませんが、会社の組織も分業と呼べるものです。ざっくり組織を「製造部門」と「販売(営業)部門」に分けた場合、作り手と売り手で分業していることになります。

現実には製造部門の中でも、もっと細かく分業されています。企業内に留まらず特定のパーツ製造を請け負う下請け工場のような形で、複数の企業が役割分担して生産しているということもあります。製造や販売に関わる部門以外にも広報や経理といった部門も1つの商品を世に出すだめの役割を担っています。

物理的プロダクトの生産だけではなく、ITシステムの導入でも役割分担(分業)されています。

ITシステムにおける分業の例(ITベンダー視点)

※ウォーターフォールモデルでの導入例

  1. システム提案(営業、コンサルタント)
  2. 要件定義(コンサルタント、システムエンジニア)
  3. 設計(システムエンジニア)
  4. 開発・構築(システムエンジニア、プログラマ)
  5. 運用(オペレータ)
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ウォーターフォールモデルでの導入ステップを例にしました。かなり簡略化しているけど、伝えたいことは、1つのシステムを導入するために様々な役割の人が関わっているっていう点です。

スポーツ分野での分業

生産に関わる分業以外にも、チームで戦うスポーツでも分業(役割分担)されていることがありますよね。例えば、1チーム9人で戦う野球の場合、ピッチャー、キャッチャー、内野手、外野手というポジションがあります。

15人で戦うラグビーにも細かな役割があり、ざっくり分けるとフォワード(FW)8人、バックス(BK)7人ですが、15人それぞれにポジション名と異なる役割が課されています。(2019ラグビーワールドカップの時に知りました。)

分業で得られるメリット

冒頭で触れたように現代において、分業は当たり前の仕組みです。でも、当たり前すぎて分業のメリットって意識する事がないですよね。ここで改めて分業のメリットを挙げてみます。

例えば、サッカーというスポーツでゴールキーパー(GK)という役割があります。このゴールキーパーは、唯一の手が使えるポジションで、他のディフェンダー(DF)、ミッドフィールダー(MF)、フォワード(FW)といったポジションと動きが大きく異なります。サッカーのポジションの中で非常に専門性の高い存在です。

このような専門性の高い職業ハイレベルなゴールキーパーを育てようとした場合、ゴールキーパーとしての必要な動きに特化して練習メニューを組むことが能力の習熟(高度化)には適しています。

ビジネスにおいても、様々な部署を数年おきに異動するよりも、1つの部署で専門性を磨いた方が最終的に到達する技術レベルは高くなります。適性や学習意欲も関与しますが、数年毎に各部署を異動するよりも同じ部署で経験を積み重ねる方がその分野の習熟度は高くなるはずです。(ただ単純に同じ作業を繰り返しするだけでは伸びませんよ。)

経営者から見れば、分業することで労働者を1つの仕事に集中させることができます。営業なら営業活動を繰り返し、知識が深まり、習熟度の高まりと共に生産効率もアップするでしょう。結果、より高い営業成果を生み出すことに繋がります。従業員も分業で1つの仕事に対する技能を磨くことができます。やりたい仕事に注力できるという点もメリットと言えるでしょう。(やりたい仕事に就けるかは、配属ガチャにもよりますが)

これは、人という単位だけではなく、企業という単位でも同じです。原材料の加工から販売まで1つの企業で行うのではなく、原材料の加工が得意な会社、組み立てが得意な会社などで分業(協業)することで、生産コストを抑えつつ、品質を高めることに繋がります。

分業という考えの誕生

経済学者のアダム・スミスは、1776年に刊行した「国富論」の中で、ピンの製造を例にとり、多数の労働者が1つの生産過程に関わって協力して労働に従事する「分業」が労働生産性を向上させる新たな生産方法として説いています。これが、分業という表現が世に生まれた瞬間とされています。時代背景として国富論がリリースされたのは産業革命初期。機械制大量生産の時代よりも少し前です。

ピンを作る場合、鉄を針金状に伸ばして切断し、穴をあけて尖らせるという工程があります。これを1人の職人が担当するよりも、しかし複数の労働者で分担して作業すれば効率化できて生産力があがるという考えです。

分業制により生産性が向上すると、アダム・スミスの説いた理由は以下3点です。

  • 個々の作業に専念すれことによる労働者の熟練度向上
  • 別工程に移行する際に生じる時間の削減
  • 各工程に必要な機械の導入(開発)が可能

アダム・スミスは、「分業体制が究極まで推し進められていき、人は自分が必要とするものの圧倒的大部分を他人の労働に依存しなければならなくなる」と分業体制の未来を予言していました。確かに、現代社会はアダム・スミスの言う通りになっていると言えます。

(脱線)日本の労働市場による闇

日本でも明治時代までは、給与を上げるためにスキルを身に着けて転職という時代がありました。大正時代以降に熟練の職人を長期雇用するために、年功賃金制や生活給思想が生まれ賃金統制令や年功序列が導入されました。戦後、GHQがアメリカ型のジョブ型雇用の定着を試みましたが、「人に職務をつける」発想が浸透していた日本では定着しませんでした。

ジョブ型雇用
欧米企業で採用されている雇用形態。職務、勤務地、労働時間等を決めて採用、就労する制度。日本の終身雇用制度が「人に職務を人をつける」を前提としているのに対し、「職務に人をつける」を前提としている。企業は高いスキルをもつ人材を確保でき、労働者は自分のスキルを活かす仕事に就くことができる。

結果、1950年代に職能給が確立され、労働市場から人材を調達するのではなく、社内の配置転換による雇用調整がメインになり現在まで続いています。この職能給の最大の難点は「勤続年数が長くなれば潜在能力が伸び、潜在能力があるから配置転換してもバリバリに活躍できる」という謎理論がある点。

これが、日本経済が世界に遅れた原因と日本でSIerが存在できている理由だと思っています。(この話は後日に別記事を書きます。)

なので、日本は中途採用でさえ、労働者のもつ専門性よりも「将来的に別の部署に転属しても活躍できそうか」を意識して採否を判断している企業もあります。

日本の雇用制度に興味があれば、濱口桂一郎さん著「日本の雇用と労働法」がオススメです。

分業のデメリット

分業は生産能力を高めるという理由で効果的でした。現在では国や業種に関わらず導入されている仕組みです。この分業という仕組みは良い仕組みなのですが、組織運営の中で失敗するケースがあります。これが、畑村洋太郎さんが「技術の創造と設計」の中で触れている部分です。

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ここまできて、やっと「技術と創造の設計」に触れる…(導入部分が長くなり過ぎました)

組織における分業という仕組みは、導入当初は上手く作用する事例が多いです。どんな場合に分業がうまく作用しなくなる(デメリットとなりえるのか)のかを「技術の創造と設計」の中では失敗例として紹介していました。

(図1)技術の創造と設計の挿絵を元に簡素化したもの

分業は導入された当初はうまく作用します。このうまく作業した分業という仕組みが崩壊する原因に「時間経過」が大きく関わってきます。

1つの作業を分業した当初は各担当(各部門)が、「なぜ分割されたのか」を理解し、隣の担当(部門)の範囲もカバーするように動きます。元々は同じ仕事をしていたものを工程や役割ごとに分業するので、隣の仕事も理解して円滑に仕事が回ります。

しかしながら、分割することで分割した部門などの組織単位に評価基準が作られ、その組織単位の中で個人の評価も設定されます。そして、時間経過と共に組織の人員が入れ替わり、次第に分業した経緯や仕事全体に対する理解が薄くなっていきます。

当然ながら、各組織に属する労働者は、与えられた評価基準を満たすように動き、別の部署の問題には関与しなくなります。関与することで評価を下げられる場合もあるでしょう。

結果、誰も手を付けない領域が生まれ、必要な考慮が漏れるなどをデメリットと説いていました。

本書に触れたことで、失敗は情報ではなく知識にして初めて伝達される。ナレッジ共有が大事だと言われる事も多いが、共有するだけでは意味がないという一文に面白さを感じた。

仕事をしていると情報共有という点においては、溺れるような量の情報が流れてくるが、それらが他人が使える知識として共有されているかと考えたとき、僕自身が発信する情報も含め、まだまだ未熟な点があるなと感じる事ができた。

IT関連の技術書ばかり読んで知識が偏重になっているなと感じる方は、気分転換に「技術と創造と設計」を読んでみても良いかも。

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